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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)10701号 判決 1979年5月28日

原告(反訴被告)

アリタリア・リネエ・アエレエ

・イタリアーネ・エス・ビー・エイ

外二七名

右原告ら訴訟代理人

田中徹

外四名

被告(反訴原告)

右代表者法務大臣

古井喜実

右指定代理人

遠藤きみ

外六名

主文

原告ら(反訴被告ら)の請求をいずれも棄却する。原告ら(反訴被告ら)は被告(反訴原告)に対し、それぞれ別紙債権目録記載の金員を(同目録24、25、26の原告ら(反訴被告ら)は同目録記載の金員を連帯して)支払え。

訴訟費用は本訴反訴を通じ、原告ら(反訴被告ら)の負担とする。この判決は被告(反訴原告)勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

(以下本訴、反訴を通じ、原告ら(反訴被告ら)を原告らと、被告(反訴原告)を被告という)

(本訴事件について)

一本訴主位的請求について

1  本訴主位的請求の適否について

被告は本訴主位的請求が不適法である旨主張するので、まずこの点について判断する。

(一) 被告は、本訴主位的請求の趣旨に掲げられている権利は架空の観念にすぎず、実体法上のいかなる権利であるか不明確であり、従つて本訴主位的請求は訴訟物の特定を欠く旨主張するが、原告らは運輸大臣が設置し、及び管理する公共用飛行場を、その使用の対価を支払つて継続的に使用する権利を被告に対して有する旨主張し、右継続的使用権の確認を求めるものであり、右使用の対価も、昭和四五年運輸省告示第七六号(昭和五〇年運輸省告示第三四〇号による改正後のもの)に規定する着陸料及びその他の使用料のうち、特別着陸料を除く着陸料(普通着陸料)及びその他の使用料と、具体的に特定されているのであるから、原告らの主張するような継続的使用権の存在が認められるか否かは別として、訴訟物の特定としては欠けるところはない。

(二) 次に被告は、本訴主位的請求は、不特定多数人を名あて人として発せられた本件特別着陸料に関する告示(昭和五〇年運輸省告示第三四〇号)が無効であることを理由として、公共用飛行場の現実の使用とは全く無関係に、一般的・抽象的に、原告らが公共用飛行場を使用した場合に右告示の定める特別着陸料を被告に対し支払う義務のないことの確認を求めるものであり、その実質は、右告示が無効であることの確認を求めるものであるから、具体的事件性を欠く旨主張するが、原告らは、航空法第一二九条第一項の運輸大臣の許可を取得することにより、公共用飛行場を、その使用の対価を支払つて継続的に使用する権利を被告から取得したと主張して、右継続的使用権の確認を求めているのであり、右使用権に対応する使用の対価支払義務の中に、特別着陸料支払義務は含まれないと主張し被告はこれを争つているのであるから、本訴主位的請求が具体的事件性を欠くものとはいえない。

(三) 右のほか本訴主位的請求についてその適法性が問題となるような事情は存しない。

2  本訴主位的請求の当否について

まず、原告らは、航空法第一二九条第一項の運輸大臣の原告らに対する許可により、原告らと被告との間に公共用飛行場使用に関する基本的法律関係が発生し、原告らは被告に対し、日本の公共用飛行場をその使用の対価を支払つて継続的に使用することのできる権利を取得した旨主張するので、この点について判断する。

原告らが外国人国際航空運送事業者として、日本において航空運送事業に従事することにつき、それぞれ別表1記載の日時に、航空法第一二九条第一項の運輸大臣の許可を受けたこと、及び右運輸大臣の許可により原告らが日本において従事できるようになつた航空運送事業は、①本邦外から出発して本邦内に到達する航行、②本邦内から出発して本邦外に到達する航行、③本邦外から出発して着陸することなしに本邦を通過し、本邦外に到達する航行、以上の航行により旅客又は貨物を運送する事業であることは当事者間に争いがなく、航空法第一二九条第一項の運輸大臣の許可を受けようとする者は、航空法第一二九条第二項、航空法施行規則第二三二条により、路線の起点、寄港地、終点、及びこれら相互間の距離を航空略図をもつて明示することを要求されていること、及び外国人国際航空運送事業者は、その事業計画を変更しようとするときは航空法第一二九条の三第二項により、運輸大臣の認可を受けることを要求されていることは右各法文上明らかである。

原告らは、航空法第一二九条第一項の運輸大臣の許可、及び同法第一二九条の三第二項の運輸大臣の認可以外には原告らが日本の公共用飛行場を使用するについて許認可を受けることを要求されていないこと、及び原告らが日本において公共用飛行場以外の飛行場(例えば、私設の飛行場又は地方公共団体が設置し、及び管理する公共用飛行場等)を使用して航空運送事業に従事することは、航空機の離着陸のための地上設備などの点から見て不可能であることを理由として、右運輸大臣の許認可は、原告らが外国人国際航空運送事業者として、日本において航空運送事業に従事することについての許認可であると共に、原告らがその従事する航空運送事業のために日本の公共用飛行場を使用することについての許認可でもあると主張し、更に、原告らはそれぞれ別表1記載の日時に、航空法第一二九条第一項の運輸大臣の許可を得たので、右許可により、その事業計画に従い日本の公共用飛行場を継続的に使用する資格を与えられたのであるから、右許可により原・被告間に公共用飛行場使用に関する基本的法律関係が発生し、原告らは被告に対し、日本の公共用飛行場をその使用の対価を支払つて継続的に使用することのできる権利を取得したと主張する。

しかし、空港管理規則(昭和二七年運輸省令第四四号。)によれば、同規則第六条第一項所定の供用条件に従う限り、何人であつても届出のみによつて公共用飛行場を使用することができ、外国人航空運送事業者も、国際航空運送事業活動以外の目的であれば、前記運輸大臣の許認可を受けた事業計画(路線の起点、寄港地、及び終点)に含まれない公共用飛行場を届出のみによつて使用することができるのであり、又、仮に原告ら主張のように原告らが日本において公共用飛行場以外の飛行場を使用して航空運送事業に従事することは、地上設備などの点から現時点では事実上不可能であるとしても、法律上、公共用飛行場以外の飛行場を使用して航空運送事業に従事することについて何らの制約もないのであるから、前記運輸大臣の許認可が、外国人航空運送事業者が日本の公共用飛行場を使用すること又はこれを変更することの許認可を含むものではなく、単に外国人航空運送事業者が日本において航空運送事業に従事するについての許認可であるにすぎないことは明らかである。

従つて、原告らが右許認可を得たからといつてこれによつて公共用飛行場につき何らの使用権を取得するものではないから、原告らの本訴主位的請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

二本訴予備的請求について

1  本訴請求の原因二記載の事実(特別着陸料の設定及びその内容)は、当事者間に争いがない。

2  原告らは、昭和五〇年九月分及び昭和五二年八月分の特別着陸料の支払義務が存在しない旨主張するので、以下原告ら主張の理由につき順次これを判断する。

(一) 特別着陸料は公共用飛行場の使用の対価ではないので、その設定は運輸大臣の権限に属さず、無効であるとの主張について

(1) 特別着陸料を設定した本件告示が、公共用飛行場の施設の使用者に対し、運輸大臣の定める着陸料その他の施設の使用料の支払義務を課した空港管理規則第一一条を根拠としていることは当事者間に争いがなく、同規則第一一条が国の管理する公共用飛行場施設の利用者は、着陸料、照明料、格納庫使用料、停留料、建造物使用料、土地使用料又は駐車料を、運輸大臣が定める方法及び額によつて運輸大臣に支払わなければならない旨定めていることは右条文上明らかである。

(2) 公共用飛行場の使用料に関する法制を見ると、まず、航空法第五四条が、「飛行場の設置者又は航空保安施設の設置者は、公共の用に供する飛行場又は航空保安施設について使用料金を定めようとするときは、運輸大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様である」と規定し、更に同法第五四条の二第一項が、「飛行場の設置者は、運輸省令で定めるところにより、公共の用に供する飛行場の供用の条件その他業務の運営に関する事項について管理規程を定め、利用者に見やすいように提示しなければならない」と規定しており、右第五四条の二第一項の規定は同法第五五条の二第二項によつて運輸大臣が飛行場又は航空保安施設を設置し、又はその施設に変更を加える場合に準用されている。

右航空法の規定によれば、公共の用に供する飛行場の設置者が運輸大臣であるときは、運輸大臣は、自ら右飛行場の使用料金を定め、その使用料金を含めて、右飛行場の供用の条件その他業務の運営に関する事項について管理規程を定める権限を与えられたものと解される。

そして、右航空法第五四条の二第一項の規定を受けて航空法施行規則(昭和二七年運輸省令第五六号)第九三条の二第一項が、飛行場の設置者は、航空法第五四条の認可を受けた使用料金並びにその収受及び払戻に関する事項について管理規程を定めなければならない旨定め、同第二項が、運輸大臣が飛行場を設置する場合に右第一項の規定を準用しており、これを受けて前記空港管理規則第一一条が規定されている。

右のような公共用飛行場の使用料に関する法制から考えると、運輸大臣は公共用飛行場の設置、管理者として、同飛行場を維持、運営していくうえで必要と考える種類、金額の使用料を、その裁量によつて定める権限を有し、空港管理規則第一一条は、航空法第五五条の二第二項によつて準用される同法第五四条の二第一項に基き、右使用料の種類を自ら運輸省令によつて明らかにしたものというべきである。従つて、空港管理規則第一一条に定める着陸料は、公共用飛行場を維持運営していくうえで必要と考えられる費用のうち、当該航空機離着陸のため公共用飛行場を使用した者に負担させるのが合理的と考えられるもの(使用の対価)をいうと解すべきである。そして、空港管理規則第一一条に定める着陸料は、右の意味で、公共用飛行場の使用の対価を指すものということができる。

(3) 原告らは、特別着陸料は騒音対策費として使用されるが、そうすると、東京国際空港の使用により徴収される特別着陸料の大部分が、原告らの使用する度合の極めて低い大阪国際空港の整備に充当されることになり、当該空港の維持、管理費と対応しない額の使用料を払わされることになるので、特別着陸料は空港使用の対価とはいえないと主張し、原告らを含む国際航空運送会社の東京国際空港の使用割合が少なくとも約六五パーセントであること(従つて大阪国際空港の使用割合は三五パーセント以下であること)及び原告らのうち、現在大阪国際空港を使用しているのは、わずかにエアーインデイアほか八社に過ぎず、他の一九社が大阪国際空港を現に使用していないことは当事者間に争いがなく、更に<証拠>によれば、特別着陸料においては各空港別に異なつた料金ではなく、公共用飛行場全部に均一の料金が定められていることが認められる。

しかし、<証拠>を総合すると、特別着陸料は、騒音対策費が空港整備特別会計に占める割合が、昭和四七、八年ころから急激に膨張した(昭和四七年度は五七億円、昭和四八年度は一一〇億円、昭和四九年度は一三七億円、昭和五〇年度は二三四億円)のに伴い、同特別会計の歳入歳出の均衡を保つ方策の一つとして、使用料収入の増加を図るために設けられたものであり、歳入の増加を図らなければならないことになつた直接的な原因が、ジエツト機の離着陸の際の騒音による騒音対策事業(公共飛行場周辺の学校、病院等の施設、あるいは民家の防音工事、騒音障害の激甚な地区にある家屋の移転補償等)の拡大にあつたため、従前の着陸料(普通着陸料)の一般的値上げの方法はとらず、騒音が特に問題とされるジエツト機につき騒音値と最大離陸重量を基準として新たに特別着陸料を設置したものであること、空港整備特別会計は、国の空港の使用料収入、航行援助施設使用料(援助料)、地方公共団体負担金収入等の特別会計自己財源と、一般会計からの繰入れによつて歳入を構成し、これによつて空港整備、騒音対策等の歳出を賄うものであり、特別着陸料収入がそのまま騒音対策費に回されるというような対応関係はなく、特別着陸料収入の用途は普通着陸料収入の用途と全く異ならないこと、普通着陸料においては、航空機の負担力を表わす最大離陸重量を基準として料金が定められていること、特別着陸料において各空港別に異なつた料金ではなく、公共用飛行場全部に均一料金が定められているのは、いわゆるプール採算制を採用したものであり、公共用飛行場は相互に密接な関連を有し、一つの飛行場の機能が十分に維持、管理されることが、他の飛行場の機能を向上させることになること等を理由とするもので、普通着陸料についても同様の制度がとられていること、航空機の騒音は、航空機の構造上不可避的に生ずるものであり、その対策費も将来にわたつて継続的に必要とされるものであるから、騒音対策の実施なくしては空港機能の維持は不可能であるという意味において、騒音対策費は空港の維持管理のために不可欠な経費の一部と考えられること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、特別着陸料はジエツト機のみを対象とし、騒音値を基準とする点において、普通着陸料と異なるが、その他の点では普通着陸料と異なるところはなく、騒音対策費が空港の維持運営のための経費の一部と考えられるようになつた昨今においては、普通着陸料のほかに騒音の激しいジエツト機に対して、航空機の負担力を表わす最大離陸重量のみならず、騒音値をも料率の基準とする着陸料を付加することも、十分な合理性を有するものというべきであるから、特別着陸料が公共用飛行場の使用の対価であることは明らか(この意味で特別着陸料の設定は、その実質においてはジエツト機を対象とした着陸料の値上げと理解される)である。従つて、原告らの主張は結局、原告らが現時点で大阪国際空港をあまり利用していない(航空法所定の前記運輸大臣の許認可を得ていない)ことを理由に、使用料設定に際しプール採算制をとることを非難する意味しか有さないこととなるが、プール採算制も、公共用飛行場を、相互に密接な関連を有する飛行場の組織としてとらえ、全体としての飛行場の機能を維持し、向上させようとするものであるから、その点では十分に合理性を有するものというべく、プール採算制をとるか、各飛行場ごとに使用料を定める方法をとるかは、公共用飛行場の設置、管理者であり、使用料決定の権限を有する運輸大臣の裁量に属するものと解すべきであるから、原告らの主張は理由がないというべきである。

(二) 特別着陸料の設定は憲法第八四条に違反し無効であるとの主張について

原告らは特別着陸料は租税としての性格を有するから、その設定は法律又は法律の定める条件によらなければならず、運輸省告示による特別着陸料の設定は憲法第八四条に違反し無効である旨主張するが、前記(一)で判示したとおり、特別着陸料の設定は、従前の着陸料とその本質において何ら異なるところはなく、むしろ従前の普通着陸料の値上げというべき性質のものであることは前記(一)で判示したとおりであるから、右主張が理由のないことは明らかである。

(三) 特別着陸料の設定は財政法第三条に違反し、無効であるとの主張について

原告らは、公共用飛行場の管理及びそれに伴う使用料の徴収等は、事実上国の独占に属する事業に該当するから、特別着陸料の設定は、財政法第三条により、法律又は国会の議決に基かなければならず、運輸省告示による特別着陸料の設定は無効である旨主張するが、仮に特別着陸料が財政法第三条の定める事実上国の独占に属する事業における事業料金に該当するとしても、それは財政法第三条の特例に関する法律の規定により、法律の定め又は国会の議決を経なくても決定、改定をなしうるものとされているから、その余の点について判断するまでもなく、右主張は理由がない。なお、財政法第三条の特例に関する法律が立法機関による廃止の手続を要することなくその効力を失うのは、同法附則第二項に規定されているところにより、物価統制令が廃止された場合に限るのであり、物価統制令の廃止されていない現在、右法律が効力を有することは明らかである。

(四) 特別着陸料の内容は著しく合理性を欠くから、その設定は運輸大臣の権限の範囲を超えるもの、又はその権限の濫用として無効であるとの主張について

(1) 原告らは、特別着陸料の設定は、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律第四条に宣明されている汚染者負担の原則の適用としてなされたのに、実際には前記(一)(3)記載のとおり、東京国際空港の使用により原告らから徴収される特別着陸料の大部分が、原告らの使用する度合の極めて低い大阪国際空港の騒音対策費に使われ、汚染者負担の原則に反する結果になつており、合理性を欠く旨主張するが、特別着陸料が右法律第四条にいう汚染者負担の原則の適用として設置されたと認めるに足りる証拠はなく、前記(一)(3)で判示したとおり、特別着陸料は騒音値と共に最大離陸重量をも基準として料率を定めており、新たな着陸料の設定というより従前の普通着陸料の値上げというべき性質のものと解すべきである。従つて、原告らの右主張は結局原告らが現時点で大阪国際空港をあまり利用していないことを理由に、使用料の設定に際しプール採算制をとることを非難する意味しか有さないこととなり、プール採算制をとるか否かは前記(一)(3)で判示したとおり運輸大臣の裁量に属するので、原告らの主張は理由がない。

(2) 次に原告らは、被告は騒音対策費増大のための財源の支出を、自らは負担せず、もつぱら原告らを含む航空会社に負担させ、自らの責任を右航空会社に転嫁するため特別着陸料を設定したのであるから、特別着陸料の設定は不合理である旨主張するが、<証拠>によれば、仮に特別着陸料収入が総て騒音対策費に使用されるとしても、特別着陸料収入は騒音対策費の一部にしか充たない(例えば、昭和五〇年度予算においては、前者が六五億円であるのに対し、後者は二三四億円である)ことは明白であり、又前記(一)(3)で認定したとおり、昨今、騒音対策費は空港の維持運営のための経費の一部と考えられているのであるから、増加する騒音対策費の一部を騒音を発生させて空港を使用する航空会社に使用料として負担させても何ら不合理ではない。従つて右主張は理由がない。

(3) 次に原告らは特別着陸料が航空機の重量を算定基準の一としていることが不合理である旨主張するが、前記(一)で判示したとおり、特別着陸料の設定は従前の着陸料の値上げというべき性質のものであり、特別着陸料も公共用飛行場の使用の対価であることに変わりはないから、普通着陸料と同様に航空機負担力を表わす重量を算定基準の一とすることに不合理な点は存しない。従つてその余の点について判断するまでもなく右主張は理由がない(特別着陸料が航空機の重量を算定基準の一にしているため、新大型低騒音機の導入を困難にする旨の原告らの主張は単なる予測にすぎず、何ら裏付けのあるものではない)。

(五) 特別着陸料の設定は国際民間航空条約第一五条に違反し無効であるとの主張について

(1) 原告らは特別着陸料は空港その他の施設の使用の対価としての性格を有さないので、一つの締約国が他の締約国に対し、使用料その他の課徴金を課すことは、それが空港その他の施設の使用の対価である場合にだけ許されるという趣旨の、国際民間航空条約第一五条第三項後段に違反する旨主張するが、特別着陸料が空港その他の施設の使用の対価であることは前記(一)で判示したとおりでるから、右主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

(2) 次に原告らは、国際民間航空条約第一五条第二項(b)は、各締約国は、その空港及びその他の施設の使用に関し、他の締約国の航空機に対して課す料金は、自国の類似の国際航空業務に従事する自国の航空機に対してよりも高額であつてはならないと規定するが、大阪国際空港を使用する割合が少ないか、あるいは全く使用していない原告ら外国航空会社に対し、原告らよりも大阪国際空港を使用する割合の多い日本の航空会社、すなわち、日本航空及び日本アジア航空の国際便の航空機に対してと同率の特別着陸料を課することは、特別着陸料の大半が大阪国際空港周辺の騒音対策に使われることを考慮すると、本来日本航空や日本アジア航空が負担すべき額を原告らが負担することになり、実質的に見て、国際民間航空条約第一五条第二項(b)に違反する旨主張するが、前記(一)で認定したとおり、特別着陸料がそのまま騒音対策費に使われるという関係にはなく、また前記(四)(2)で認定したとおり、特別着陸料収入は騒音対策費の一部にしか充たないものであるから、右主張が理由のないことは明らかである。なお、プール採算制をとるか否かは運輸大臣の裁量の問題であることは前記判示したとおりである。

(六) 特別着陸料の設定は国際民間航空条約第三七条に違反するから無効である旨の主張について

国際民間航空条約第三七条第一項の規定内容が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがないが、同条同項は、一国の空港使用料についての一定の定めが他の締約国の使用料についての定めの中には見られないものであるからといつて直ちにこれを無効たらしめる趣旨の規定ではなく、このことは同条約第三八条の規定が、国際民間航空機関が一定事項について統一を図るため第三七条第二項に基いて採択した国際標準についても、これに従い得ない締約国の存することを前提としていることから推して明らかである。従つて、右条約第三七条第一項が、他の締約国の使用料についての定めの中には見られない一国の空港使用料の一定の定めを無効たらしめる趣旨の規定であることを前提とする原告らの主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(七) 特別着陸料の設定は二国間協定に違反し、運輸大臣の権限の範囲を越え、無効である旨の主張について

原告らが特別着陸料の設定が二国間協定に違反する理由として挙げるものは、①特別着陸料は飛行場その他の施設の使用の対価としての性格を有さないこと、②特別着陸料の内容は著しく合理性を欠くこと、③原告らが大阪国際空港を使用する割合は、日本の航空会社、すなわち日本航空及び日本アジア航空が大阪国際空港を使用する割合よりも少ないため、特別着陸料により、実質的に原告らの方が日本航空及び日本アジア航空よりも高額の使用料を課されていることになること、の三つであるが、右三つの主張がいずれも理由のないことはこれまで判示してきたとおりであり、従つて特別着陸料の設定が二国間協定に違反する旨の原告らの主張が理由のないことはその余の点について判断するまでもなく明らかである。

(八)  以上のとおり、原告らが昭和五〇年九月分及び昭和五二年八月分の特別着陸料の支払義務が存在しない理由として主張するもの(本件告示による特別着陸料設定の無効)は、いずれも理由がない。

3  次に原告らは、昭和五二年八月分の特別着陸料に対する延滞金の支払義務が存在しない旨主張するので、これを判断する。

(一) 本訴請求の原因四記載の事実(特別着陸料を含む公共用飛行場使用料に対する延滞金の設定及びその内容)は、本件延滞金の制度が、昭和五二年運輸省告示第三四五号によつて初めてとり入れられた制度であるか否かの点を除き、当事者間に争いがない。

原告らは、特別着陸料を含む公共用飛行場使用料に対する延滞金は、昭和五二年運輸省告示第三四五号により初めて課されたもので、同告示以前には延滞金徴収の余地はなかつた趣旨の主張をするが、国の債権の管理等に関する法律によれば、金銭の給付を目的とする権利を国が有する場合、国が履行の遅滞に係る損害賠償金その他の徴収金を延滞金として徴収しうることが当然の前提とされており(同法律第二条第一項、第二四条第二項、第三三条)、公共用飛行場使用料についても、その支払が遅滞した場合には、国(被告)は、右告示以前にも、少なくとも民法第四一九条第一項(第四〇四条)所定の割合による延滞金を請求しえたことは明らかである。そして、<証拠>によれば、右告示以前にも、普通着陸料に対し、年8.25パーセントの割合による延滞金が徴収されていたことが認められる。従つて、右告示は、特別着陸料を含む公共用飛行場使用料に対して新たに延滞金を課する趣旨のものではなく従来から課されていた延滞金の率を8.25パーセントから年14.5パーセントにひき上げたことを明らかにする趣旨のものであると解すべきある。

(二) 原告らは、本件延滞金は、特別着陸料の支払を拒否している航空会社に対する報復措置として設定されたものであり、公共用飛行場の使用の対価としての性格を有さないので、その設定は運輸大臣の権限に属さず無効である旨主張するが、本件延滞金は、昭和五二年運輸省告示第三四五号により新たに設定されたものではなく、同告示によつてその率が年14.5パーセントであることを明らかにされたものにすぎないことは、前記のとおりであり、特別着陸料に対しても延滞金を徴収することについては、特別着陸料が公共用飛行場使用の対価であり、特別着陸料設定の権限が運輸大臣にあることは前記判示したとおりであるから、特別着陸料以外の公共用飛行場使用料に対して延滞金を徴収するのと何ら異なるところはなく、右告示以前にも徴収しえたものである。そして合理的な範囲で告示によつて公共用飛行場使用料に対する延滞金の率を定めることは、告示によつて公共用飛行場の使用料を定める権限を有する運輸大臣(運輸大臣がこの権限を有することは前記判示したとおりである)の権限に含まれるというべきである。そこで、原告らの右主張は結局、右告示で本件延滞金の率が年14.5パーセントと定められたことを非難する(運輸大臣の合理的な裁量の範囲を越えるとする)に帰することになるが、<証拠>によると、右告示をもつて延滞金の率を年14.5パーセントと定めた理由は、①公共用飛行場の使用料については、その支払方法が施設使用後のいわゆる後払いとされているため滞納が生じやすく、現実に巨額の滞納(昭和五二年二月時点で二八億円余)が発生していたので、延滞金の率を明らかにし、滞納を防止する必要があつたためであること、②国の債権のうち後払いとされているものについては、ほとんどが14.5パーセントあるいはこれに近い率の延滞金が定められていたため、本件延滞金の率も14.5パーセントとしたものであること、以上の事実が認められ、右事実によれば、仮に原告らが特別着陸料の支払を拒否したことが契機となつて、公共用飛行場使用料に対する延滞金の率が14.5パーセントと定められるに至つたものであるとしても、右は運輸大臣の合理的な裁量の範囲を越えるものではないというべきである。

従つて、原告らの右主張は理由がない。

(三) 次に、原告らは、被告は、原告らを含めた外国航空会社による特別着陸料の支払拒否により、その予定した騒音対策費の財源に重大な不足を来たしたため、本件延滞金を設定して万一敗訴した場合の原告らの経済的負担を増加させ、原告らに心理的圧力を加え、特別着陸料の存否に関する本件訴訟の継続を断念させ、原告らに特別着陸料を支払わせようとしたものであり、本件延滞金の設定はその目的において著しく合理性を欠くもので、無効である旨主張するが、本件延滞金が本件訴訟の継続を断念させるために定められたと認めるに足りる証拠はなく、右(二)で判示したとおり、本件延滞金の定めは運輸大臣の合理的な裁量を越えるものではないから、原告らの右主張が理由のないことは明らかである。

(四) 次に、原告らは、国の営造物施設の利用についての使用料に関し、本件延滞金のように極めて高率の延滞金又は、延滞利息を、しかも告示という形式で設定した例は他になく、特別着陸料についてのみこのような延滞金を設定する合理的理由は存しないので、本件延滞金はその内容においても著しく合理性を欠き、無効である旨主張するが、仮に告示によつて年14.5パーセントの延滞金の率を定めることが従前例のないことであるとしても、国の債権についての延滞金の率が法律により年14.5パーセントと定められている例がほかにも数多く有る(土地改良法第八九条の三第二項、鉱業法第一八九条の二第四項、都市再開発法第九一条第二項等)ことは各法律の条文上明らかであり、告示によつて年14.5パーセントという延滞金の率を定めることについては、これが運輸大臣の権限に属し、しかもその合理的な裁量の範囲を越えるものでないこと、前記判示したとおりであるから、原告らの右主張が理由のないことは明らかである。

(五)  以上のとおり、原告らが昭和五二年八月分の特別着陸料に対する延滞金の支払義務が存在しない理由として主張するもの(本件延滞金の定めの無効)は、いずれも理由がない。

4  以上のとおり、本訴予備的請求はいずれも理由がない。

三反訴請求について

反訴請求の原因一ないし六は総て当事者間に争いがなく、特別着陸料の設定が無効でないことはこれまで判示してきたとおりである。

右事実によれば被告の反訴請求は総て理由がある。

四結論

よつて、原告らの本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、被告の反訴請求は総て理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(川上正俊 渋川満 福田剛久)

別紙<省略>

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